癇癪を起こす子どもへの適切な関わり 〜心理学・療育の観点から〜
- 柊 齋藤
- 4月22日
- 読了時間: 4分
更新日:4月28日
子どもたちの中には、感情のコントロール(情動制御)が困難で、突発的に癇癪(かんしゃく)を起こしてしまうケースがあります。特に、発達障害(神経発達症群)、ADHD(注意欠如・多動症)、自閉症スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)といった診断を受けた子どもたちは、感覚過敏や環境の変化への適応困難といった特性を背景に、強い刺激や予定変更などをきっかけに感情が爆発しやすくなります。
保護者や支援者にとって、こうした場面はときに戸惑いや無力感を覚える原因となるかもしれません。本稿では、癇癪を起こす子どもへの適切な理解と、支援方法について、心理学および療育の視点から具体的に解説します。
癇癪は「わがまま」ではない
まず最も重要なのは、癇癪を「わがまま」「甘え」と短絡的に解釈しないことです。癇癪とは、子ども自身が強い不安、恐怖、混乱、欲求不満を言葉で適切に表現できないときに、代替的に現れる情動の爆発です。
特に発達障害やADHD、ASDの子どもたちは、**感覚統合の困難(感覚情報をうまく整理・処理できない状態)**や、**実行機能の未熟さ(計画立案や感情調整を司る脳の働きの未発達)**といった背景要因を持っています。そのため、大人が期待する「我慢」や「自己調整」が難しい場合が多いのです。
このような特性を無視して「わがまま」と決めつけることは、子どもの自己肯定感(自分に対する肯定的な感情)を著しく傷つけ、さらなる問題行動を引き起こす悪循環を招きます。
癇癪時の基本対応
癇癪を起こしている最中、子どもは認知的なパニック状態に陥っています。これは、脳内の扁桃体(危険信号を感知する脳部位)が過剰に反応し、論理的思考を司る前頭前野の働きが低下している状態です。
このため、理屈や説得は通用せず、まずは「安全確保」と「情動の鎮静化」が最優先になります。
【基本対応のポイント】
安全確保:子ども本人や周囲に危険がないか確認する。必要に応じて安全な場所へ移動。
刺激の最小化:声を荒げず、照明や音をできるだけ落ち着いた状態に整える。
介入は最小限に:無理に話しかけたり、理由を問い詰めたりしない。
大人自身の感情調整:支援者が落ち着いて対応することで、子どもにも安心感が伝わる。
癇癪後の声かけ
子どもがある程度落ち着いた段階で、情動の受容的支援(子どもの感情を否定せずに受け止めること)が必要です。
効果的な声かけ例:
「びっくりしたね。今はもう大丈夫だよ。」
「イヤだったんだね。教えてくれてありがとう。」
「落ち着いたら、どうしてイヤだったか、一緒に考えようか。」
ここで大切なのは、**共感的理解(子どもの感じたことをそのまま理解しようとする態度)**を示すことです。これは子どもの安心感を高め、次回以降、自分の感情を言葉で伝える力(情動調整スキル)を育てる基盤となります。
癇癪の予防に向けた支援
癇癪を未然に防ぐためには、子どもの情動認知力(自分の感情を認識する力)を高める支援が有効です。また、環境調整や予測可能性を高める工夫も重要です。
【具体的な取り組み】
①小さなサインを見逃さない
子どもが不快感を示す微細なサイン(表情、動作の変化、無口になるなど)をキャッチし、早期に声かけを行います。
例)
「ちょっとイヤな気持ちになったかな?」
「困ったときは教えてね。」
早めに感情の出口を作ることで、感情が爆発する前にサポートできる可能性が高まります。
②事前予告と選択肢提示
スケジュール変更やルール変更が避けられない場合は、**事前予告(前もって伝えること)**を徹底します。予測可能性を高めることで、子どもの不安を軽減できます。
また、選択肢を与えることも有効です(例:「これが終わったら、〇〇と△△、どちらをする?」)。
選択肢を与えることで、自分で選んだという感覚(自己決定感)が満たされ、癇癪のリスクを下げることができます。
癇癪を「困らせる行動」ではなく「困っているサイン」と捉える
癇癪は、子どもが**「どうしていいかわからない」「助けてほしい」**というサインであると理解することが大切です。
特に、発達障害、ADHD、ASDといった診断の有無にかかわらず、すべての子どもに共通する基本的な欲求は、
「わかってほしい」
「受け止めてほしい」
「安心したい」
というものです。
大人が子どもの行動の背景に目を向け、困っている気持ちに寄り添う支援を積み重ねることで、子どもは少しずつ自己調整力を育んでいくことができます。
おわりに
癇癪を起こす子どもへの対応は、支援者自身の根気と自己制御力を問われる場面も多くあります。しかし、「困った行動」の奥にある「助けてほしい」というサインを見つめ直す視点を持つことで、支援の質は格段に向上します。
心理学や療育の知見を活かし、子どもの特性を理解した上で適切な環境調整と言葉かけを行うこと。それが、子どもたちの「生きづらさ」を軽減し、より豊かな成長を支える礎となるでしょう。
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